画像:WEB魚図鑑より(アキヒトさん撮影)
混乱のニベ科
ニベ科の魚に広く浸透している別名があることは、馴染みの薄い私でも知っていました。「イシモチ」という呼び名はかなり広く知られている気がしますが、この科には発達した「耳石」があることが「石持ち」になったのでしょうね。でも、ネンブツダイ科にも「~イシモチ」というのが結構いて、これも1つの混乱原因になっています。
その一方で「グチ」という、シログチ・クログチなんかの由来と考えられる呼び名も知られています。私が混乱するのは、この呼び方がアマダイの地方名「グヂ」に似ているから。異なる魚の地方名が同じものになる事例はたくさんありますが、微妙に似ているというのはどっちがどっちみたいなことにもなりますし、両者が混同されることもあるでしょう。
地方名が混乱する分にはひとまず良いとしても、標準和名もまた「ニベ」「コイチ」「~グチ」とバラエティに富んでいます。これはこれで楽しいのですが、例えば「ニベ(マニベ)」「コニベ」「シロニベ」「クロニベ」とした方が、理解はしやすかったはず。標準和名の命名者は、なぜニベ科の魚それぞれにこのような呼び名を与えたのでしょうか?
ニベの語源
「古くは腫れた物を「へ」といい、鰾も「へ」と呼んだ。「ニ」は煮るの意味であり、「ニベ」の呼名は鰾を煮て膠(にかわ)を作ったことによる命名。」 https://www.maruha-shinko.co.jp/uodas/syun/69-nibe.html (2023/10/14閲覧)
「「ニベ」の名前は、鰾(うきぶくろ)を煮詰めて作る膠(にかわ)がきわめて粘着力の強かったことから、「粘る」の「ネバ」が「ニベ」に変化したと考えられる。「ニベ」は粘るものだから、その反対はくっつかずあっさりしていること。相手に無関心で冷淡に振舞うことを「にべもない」という。」 https://zatsuneta.com/archives/002043.html (2023/10/14閲覧)
コイチの語源
簡単なネット検索では、とりあえず何も分かりませんでした。魚ではない「コイチ」という言葉はありましたので、その語源を提示します。
「こ‐いち【小一】 劇場で、舞台のすぐ下の平土間の最前列の見物席。かぶりつき。あまおち。」 https://www.weblio.jp/content/%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%81 (2023/10/14閲覧)
グチの語源
「釣り上げると浮き袋を使って”グーグー”と鳴くことからグチ(愚痴)とも呼ばれる。」 https://tsuree.jp/fish/fishsearch/37 (2023/10/14閲覧)
ネットで検索する限りは、ほぼこの説で固まっているようでした。
寄せられた地方名
ニベ類の総称
イシモチ(石川県、兵庫県、広島県、島根県、山口県)、グチ・クイチ(宮崎県)
標準和名:ニベ
キングチ(長崎県雲仙市)
標準和名:コイチ
ニベ(兵庫県阪神間、香川県)、キングチ(福岡県北部)
標準和名:シログチ
イシモチ(千葉県、大阪府、兵庫県阪神間、熊本県水俣市)、グチ(広島県、島根県、山口県、香川県、福岡県北部、長崎県雲仙市、熊本県水俣市)、クチ(和歌山県、兵庫県淡路島岩屋)
標準和名:クログチ
メイゴ(静岡県)、ババグチ(和歌山県)、ニベ(兵庫県阪神間)、カマガリ・ガリ・グチ(大分県臼杵市)
少し整理してみます
地方名に限って注目してみますと、「イシモチ」・「ニベ」・「グチ・~グチ」というのが多いことが分かります。これらの地方名が、標準和名のどれに対応しているのか、整理してみます。
地方名「イシモチ」 ニベ類総称、シログチ
地方名「ニベ」 コイチ、クログチ
地方名「グチ・~~グチ」 ニベ類総称、ニベ、コイチ、シログチ、クログチ
「石(耳石)を持っているからイシモチ」、「粘性の強い膠(にかわ)の原料になったからニベ」、「グーグー鳴くからグチ」。それぞれ個性的な特徴を捉えた呼び名であり、それぞれが拮抗してしまうのは理解できます。こんな環境のなかで、由来不明な「コイチ」が「コイチ」であることに、そこはかとない疑問を感じてしまうこともまた事実でした。
「コイチ」からの妄想
気になったコメントがありました。
「宮崎では総称としてニベではなく、グチと呼ぶことの方が多いかもしれません。あと、クイチという呼び名も聞いたことがあるのですが、おそらくコイチのことではなくて、ニベ類の総称と思います。浜からの投げ釣りは、冬場の風物詩のようになっていました。」:山出 潤一郎氏からのコメント。
「クイチ」というのは、「コイチ」に無縁ではないように感じます。そして、「クイチ」と「クチ」「グチ」も似ています。定説通りに「グチ」の語源が「愚痴」にあるのであれば、「グチ」→「クチ」→「クイチ」→「コイチ」という転訛パターンの想定は可能です。だけど、その逆もまた然りなのです。
①「グチ(愚痴)」(和歌山、広島、島根、山口、香川、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎)→「クチ」(和歌山、兵庫)→「クイチ」(宮崎)
②「クイチ」(宮崎)→「クチ」(和歌山、兵庫)→「グチ」(和歌山、広島、島根、山口、香川、福岡、長崎、熊本、大分、宮崎)
寄せられたデータからだけでは、地理分布的に何とも言えないのですが、訛り方だけ考えるのであれば、②の方が自然であるような気がします。あくまでも、私の妄想でしかありませんが。
クログチに関するコメント
クログチという魚について、恥ずかしながら私は初めて知りましたが、たいへん美味しい魚のようですね。
「クログチの刺身は美味しいですね😊和歌山です。」「刺身にすればニベ科の中では一番美味しいですよ😊」:田中圭氏からのコメント。
「大分ではカマガリって言いますね。お隣さんのご飯の釜借りたいくらい美味しい魚でご飯が進むってニュアンスですかね!」:和田 輝久氏からのコメント。
コメントしていただいた方々(Facebookにおける登録名そのまま、順不同)
田中圭さま、大澤風季さま、白畑 義基さま、和田 輝久さま、吉田明広さま、岸本 保さま、山出 潤一郎さま、嶋田 春幸さま、寺井祐二さま、坂下 光洋さま、Kengo Kitamotoさま、桑野 顕さま、藤田 竜人さま、渡辺好一さま、下原 誠明さま、伊藤 成康さま、佐藤厚さま、高平康史さま 投稿者 土岐耕司 原文作成日 2023年10月15日 ※このページの情報は、Facebookグループ『WEB魚図鑑の部屋』に寄せられたコメントを基にまとめたものです。 WEB魚図鑑 ニベ他 https://zukan.com/fish/internal72