画像:WEB魚図鑑より(マリトコさん撮影)
アイゴの語源
「アイゴ」の語源についてネット検索してみました。
①アイヌ語で棘のあるイラクサを「あい」という。ここから「あい」は棘のある、「ご」は魚を表す語尾をつけたもの。
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B4 (2021/9/15閲覧)
②[アイゴ・藍子] 藍子。阿乙呉。背鰭、臀鰭に太く、鋭い棘条を持つことから、イラクサの古称「アイ」を当てたとする説がある。「ゴ」は、魚類に付けた接尾語か。漢字表記「阿乙呉」の「乙」は、ジグザクなものの形を表し、魚の腸(はらわた)の意がある。別名「矢の魚(ヤアノイオ)。
http://www.nihonjiten.com/data/45485.html (2021/9/15閲覧)
③アイヌ語で矢を「アイ」魚を「ゴ」ということから、矢のようなトゲを持つ魚として「アイゴ」と名付けられたとする説や、藍色の体色から藍子と呼んだとする説など、諸説あり定かではありません。
https://macaro-ni.jp/88905 (2021/9/15閲覧)
これだけ見ると、「アイゴ」は「アイ」+「ゴ」という構成になっていることが分かります。①・②では、「アイ」は「棘」のことになっていますが、③では「矢」のことになっています。どちらも尖っているものですが、②では「ヤアノイオ」は別名としていますので、「アイ」と「ヤー」が同じ語源の可能性がありながらも、そうでない可能性も同じくらいあるということになるでしょう。
「バリ」の語源
同じように「バリ」を検索してみました。
①身の磯臭さを「小便くさい」と捉えたことに由来するのが「バリ」や「エエバリ」などの系統の方言呼称で、小便の別称「ばり」「いばり」に由来する。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B4 (2021/9/15閲覧)
②アイゴは東京・神奈川での呼び名。臭みがあるので尿の「ばり」、沖縄では「えーぐぁー」などと日本各地にたくさんの呼び名がある。
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B4 (2021/9/15閲覧)
小便臭いことから「尿(いばり)」を語源とする、というのが通説となっているようでした。
寄せられた地方名
予習したことから、アイゴの呼び名には、大きく分けて「アイ(ヤー)」系と「バリ」系があるという仮説を立ててみました。
【アイ・ヤー】
アイ
大阪府、和歌山県、徳島県鳴門市
アイ系
アエ(高知県)
アイ系+α
アイタロウ(島根県江津市)、アイハゲ(高知県西部・愛媛県)
エイ系+α
アーノイオ(鹿児島県種子島)、エイノイオ(鹿児島県屋久島)、エィヌィユー・エヌイュ(鹿児島県奄美地方)、エーグヮー(沖縄県)
ヤー
佐賀県武雄・有田周辺、長崎県
ヤー系+α
ヤーノイオ・ヤノイオ・ヤノウオ(長崎県・熊本県)
【バリ】
バリ
千葉県、三重県、福井県、大阪府、和歌山県、広島県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、奄美地方
ヨツバリ
東京都小笠原諸島・伊豆諸島(新島村)
【アイ+バリ】
アイノバリ
三重県尾鷲市、和歌山県、徳島県、宮崎県門川町
アイノバル
宮崎県門川町
アイバリ
長崎県対馬市
エイバリ
長崎県壱岐市
【その他】
シイノハ(福井県敦賀市、京都府丹後地方)、シブカミ(和歌山県)、ハラクチ(京都府舞鶴市、鳥取県米子市・境港市、島根県美保関町)、ハリタテ(島根県)、ハラブク(島根県松江市)、カイモンイオ(鹿児島県)、エノシバ(鹿児島県薩摩川内市)、エノハ(鹿児島県串木野市)、エノケン(鹿児島県南さつま市野間池)、マテー(鹿児島県喜界島)、モーハニ(鹿児島県沖永良部島)、マーエー(沖縄県)
「アイ」系の分布と変化
「アイ」および「アイ」系の分布の東限は大阪・和歌山の「アイ」で、西に行くほど変化していっているように見えます。高知「アエ」→種子島「アー」→屋久島・奄美・沖縄「エイ・エィ・エ・エー」。スタートとゴールが反対である可能性もありますが、特に南西諸島の訛りのあり方からすると、「アイ」→「エー」という事例はたくさんあります。やはりこれは、古語である「アイ」が西・南に広まっていったと考えるべきではないかと思います。
「ヤー」は「アイ」の変化か
「ヤー」の分布は九州の西側、佐賀・長崎・熊本に限られています。これらの地域では「バリ」も混在しますが、「アイ」系は見られません。ただし、対馬島の「アイバリ」、壱岐島の「エイバリ」が気になるところです。この二つの島は行政区分としては長崎県に含まれますが、地理的に決して近いわけではないので、どう考えるかは難しいところです。
「アイ」が訛って「ヤー」になったのか、そもそもまったく別だったのか、それらがどこかで出会って島嶼部でハイブリッド化したのか。
「バリ」はホントに「尿(いばり)」なのか
「バリ」の分布は広く、東限は太平洋側で千葉、日本海側で福井であり、静岡・愛知では空白となるものの、三重・大阪・和歌山、山陽地方、九州、奄美に至っています。「バリ」の語源が「尿(いばり)」であり、おしっこ臭い魚ということなのであれば、これらの地域の人たちはその臭いが気になってしょうがないのでしょうね。日テレ「鉄腕ダッシュ」では、この臭みを取るためにレモンを使っていました。これでウソのように臭いが消えるのだとか。「バリ」と呼ぶ地域の人たちが「おしっこ臭い」と思っているのであれば、柑橘類を使えば良いわけです。偶然なのか、これらの地域では柑橘類の栽培が盛んですし。
しかし、伊豆諸島・小笠原諸島では「ヨツバリ」と言っており、「毒針が四ヶ所にあるから?」的なコメントもいただきました※。私にとってアイゴと言えば「毒針」であり、おしっこ臭いかどうかは二の次になります。語源は「尿(いばり)」だったかもしれませんが、それを聞いた人たちの頭の中では「毒針」とマッチして定着した、ということが案外あったかもしれませんね※。
※「東京都新島村:ヨツバリ(4箇所に毒があることから?)」:宮川清氏コメントより。
※「バリは、イバリから来ているとよく聞きますね。まあ、匂いはそのとおりですけど。トゲがきついのも、バリという語感にマッチして広まったのかもしれませんね。」:山出 潤一郎氏コメントより。
その他の地方名
ヒイラギ・クロダイでも出てきた、葉っぱ系と思われる呼び名が得られました。「シイノハ」(福井県敦賀市、京都府丹後地方)は椎の葉?、「エノシバ」(鹿児島県薩摩川内市)・「エノハ」(鹿児島県串木野市)・「エノケン」(鹿児島県南さつま市野間池)は榎の葉? を想像しました。
沖永良部島の「モーハニ」は、「藻(も)」を「食(は)む」というように、アイゴの食性に由来しています※。
※「沖永良部島では沖合で孵化した幼魚がリーフ内に入り藻を食べて成長します。藻(モー)を食べる、食む(ハニ)から成魚はモーハニ(方言)と呼ばれます。」:平田 春樹氏コメントより。
寄せられた出世名
単独の地方名だけではなく、成長につれて名前が変わる、いわゆる出世魚としての事例を多く寄せていただきました。
大阪府 バリコ→バリ・アイゴ・アイ
和歌山県 バリコ→アイ・アイノバリ・バリ・シブカミ
徳島県
鳴門市 当歳はバリゴ(アイゴ)→2歳魚はアイ
福岡県 バンチャゴ→バリ
大分県 エンバリ→バリ
鹿児島県
沖永良部島 ツクヌクワ→モーハニ
沖縄県 スク→エーグヮー
コメントしていただいた方々(Facebookにおける登録名そのまま、順不同)
辻岡 拓郎さま、宮川清さま、和田 俊章さま、脇阪由憲さま、高橋佳大さま、坪内茂さま、中村 早人さま、Miyazaki Yuさま、坂下 光洋さま、宮城 大輔さま、山崎宏海さま、仲 卓哉さま、古田真一郎さま、津曲勇吉さま、井上正一郎さま、桑野 顕さま、山崎善孝さま、白石 俊之さま、佐藤 洋さま、大佐古 哲児さま、大串 知光さま、山田 誉大さま、舩本 誠一郎さま、杉山 豊さま、石橋 健太さま、赤峰 竜也さま、米良 久さま、村山 茂樹さま、勇 秀行さま、岩見 和彦さま、小石原 潤さま、三村 知子さま、前谷浩さま、山﨑登さま、大家 正寿さま、手塚潤一さま、平塚 雄大さま、さん肴 上所昇さま、藤本慎央さま、黒木 康充さま、菅原 守雄さま、又吉勲さま、田中圭さま、小林 康彦さま、Takuya Nakaoさま、藤田哲夫さま、中村まさひろさま、Kaiseijuku Kaiseimaruさま、津田 堅之介さま、日高 秀一さま、柏木 伸幸さま、山口 忠則さま、川畑敏則さま、深田吉宜さま、岩倉年彦さま、的場卓也さま、緒方泰治さま、竹山 裕太さま、瀧下彰信さま、たけし びゅうさま、平田 春樹さま、鈴木 忠文さま、中山 省吾さま、Tomoki Nakasuさま、浦門英徳さま、川原 保夫さま、曽根高 幹大さま、吉住 和紀さま、村上 八朗さま、Keishin Sakaiさま。Kyougo Kobashidawaさま、金子忠史さま、前田 敦子さま、野間孝幸さま、田島和幸さま、島 興美さま、織田 将士さま、Nobuyasu Nagaharaさま、上床翔太郎さま、上野 直樹さま、末廣 孝一さま、佐藤 満さま、森木 総一郎さま、本多 竜二さま、松浦 正さま 投稿者 土岐耕司 原文作成日 2021年9月15日
※このページの情報は、Facebookグループ『WEB魚図鑑の部屋』に寄せられたコメントを基にまとめたものです。
WEB魚図鑑 アイゴ
https://zukan.com/fish/internal309