海水魚

【マグロ】その魚名を考える


画像:WEB魚図鑑より(海人さん撮影)

はじめに

一言にマグロといっても、種レベルでは「クロマグロ」「キハダ」「メバチ」「ビンナガ」「コシナガマグロ」が日本周辺に生息していますし、小型(若魚)と成魚でも呼び名が異なることはよく知られています。さらに、「シビ」という別の呼び名もよく耳にしますので、今回の地方名募集においては、以下の点に注意を払いました。

①マグロ属全般に対しての地方名
②マグロ各種に対しての地方名
③成魚と区別される若魚に対しての地方名
④「シビ」との区別あるいは「シビ」の使われ方

結果として、①についてはそれほど情報が集まらず、あるいはコメント者の真意を私が汲み切れないところがあったので、整理段階で除外しました(ゴメンナサイ)。しかし、②と③については豊富に寄せられまして、④もこれらに乗っかる形で集まりました。

驚きの「~マグロ」という呼び方

いつもコメントを寄せてくれる皆さんは、日本でも屈指の魚好きのグループに参加されています。当然、「標準和名」にも詳しいはずなのですが、種としての各マグロを当然のように「~マグロ」と呼んでいる方が多かったのは、新鮮な驚きでした。

クロマグロ=本マグロと呼ぶのはもちろんのこと、キハダ=キハダマグロ、メバチ=メバチマグロ、ビンナガ=ビンナガマグロといった類も、かなりありました。これも1つの文化なのだとも思いますが、論点を絞る意味でも「~マグロ」の呼び名は、今回の整理対象から外すことにしました。

また、ビンナガ=ビンチョウというのも多かったのですが、こちらも地方名として扱うには若干の違和感がありましたので、勝手ながらこれも整理対象からは外しています。

寄せられた地方名

クロマグロ
 シビ(三重県南伊勢町、和歌山県新宮市、沖縄県那覇市)、ウシシビ(沖縄本島中南部)
クロマグロ(若魚)
 カキノタネ(千葉県銚子市)、メジ(関東、静岡県、大阪府大阪市)、本メジ(相模湾・伊豆)、ヨコワ(三重県南伊勢町、大阪府大阪市、和歌山県、宮崎県、鹿児島県奄美)、ヨコ(高知県東部)、本ヨコ(高知県土佐清水市)、シビコ(和歌山県)

キハダ
 シビ(高知県東部、宮崎県、鹿児島県、奄美大島、沖縄県)、シュビ(沖縄県八重山)、ハツ(高知県)、チンバニー(沖縄本島中南部)
キハダ(若魚)
 キメジ(静岡県、三重県南伊勢町、和歌山県、高知県東部)、ビンタ(高知県東部)、シビ(宮崎県日南市、奄美大島)

メバチ
 バチ(静岡県)、ダルマ(奄美大島)
メバチ(若魚)
 ダルマ(静岡県、高知県東部、宮崎県日南市)

ビンナガ
 トンボシビ(三重県南伊勢町、和歌山県)、トンボ(徳島県、奄美大島、沖縄県)
ビンナガ(若魚)
 トンボ(静岡県)、コビン(高知県宿毛市)

「シビ」はクロマグロ? キハダ?

どうやら、クロマグロを指す地域とキハダを指す地域とがあり、この両者が混在しているのは沖縄だけで、他の地域では区別がはっきりしているように思えます。沖縄でのこの状況については、流通の在り方に起因する可能性があるようです。

※「沖縄 ショッピングセンターの流通ルートによって、商品表示が違いますね。どちらのルート(関東系?関西系?)が解る気がして、気になってました。 標準和名で、分類をまず整理する必要があるかもしれません。 ビンナガを、かねひで系列(CGCグループ)ではビンチョウマグロ(あるいはビンチョウ)とし、サンエー(ニチリウ)ではトンボマグロと表示して、切り身を売っています。 かねひで系では、養殖クロマグロを、「本マグロ」と表示しています。 沖縄では、カツオぐらいのサイズまでのキハダマグロなどを、「シビマグロ」として売るのが普通と思いますが、どちらかのショッピングセンターで、「キメジ」の表示をみたことがあります。 そんな具合なので、ビンチョウマグロ、トンボマグロの呼称を、標準的な呼び名と思い込んでいる人が、きっとたくさんいると思います。 」: 坂下 光洋氏コメントより。

クロマグロを「シビ」と呼んでいるのは、沖縄以外だと三重県・和歌山県。キハダを「シビ」と呼んでいるのは、高知県・宮崎県・鹿児島県および南西諸島。つまり、「シビ」と呼ばれている魚種が違っているわけです。このことについて、非常に的を射たコメントをいただいております。

※「江戸時代以降に使われだしたマグロの前の呼称は全国的にシビだったということですので、各地目の前の海で獲れるマグロの種をシビと呼んで、物流が発達してから見掛けるようになったマグロ全般をマグロと呼ぶようになったのかなって、僕は想像してました。徳之島の沖で船釣りしててよく釣れるのはキハダマグロですので。。」「元々シビ=マグロで、シビ=ヨコワではないと思います。よく獲れるものが小型のクロマグロの地方は小型のクロマグロがシビで残ったんじゃないでしょうか。そうだとすると分布の広いキハダマグロを大小様々にシビと呼ぶ地域が全国に分散して存在する説明も付きますし、長崎だったか正確には失念してしまいましたが、逆に大型のクロマグロのみをシビと呼ぶ地域がある事も説明が付きます。」:Kengo Kitamoto氏コメントより。

「シビ」は「マグロ」よりも古い言葉とされています。魚のことではありませんが、5世紀末ごろの大和地方の豪族・平群(へぐり)氏に「鮪」という人物がおり、「志毘」とも書かれることから、この頃からマグロのことは「シビ」と呼んでいたのでしょう

マグロは元々「シビ」であり、全国的にもそうであった。だけど、その土地土地で漁獲される「マグロ」には違いがあって、四国・九州・南西諸島ではそれがキハダであった。より細かな違いについても、Kitamoto氏のご卓見をもってすれば全て解決できそうです。

https://www.maruko-fish.co.jp/tuna-history.html (2022/12/11閲覧)

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E7%BE%A4%E9%AE%AA(2022/12/12閲覧)

「メジ」と「ヨコワ」、そして「キメジ」

クロマグロ若魚の呼称である「メジ(メジマグロ)」と「ヨコワ(高知の「ヨコ」を含む)の分布は、凡そ前者が東日本で後者が西日本となりました(大阪では流通上の問題で両者混在がありそうです)。なので、「メジ」という呼び名は東日本特有のものと考えたくなるのですが、キハダ若魚の呼び名として広く使われているのが「キメジ=黄色いメジ?」です。

「キメジ」分布圏は、「メジ」の主な分布圏である関東地方を外れて、静岡県~高知県に確認できました。特に、三重・和歌山・高知は「ヨコワ(ヨコ)」を多用しておきながら、キハダ若魚に対しては「キヨコ・キヨコワ」ではなく「キメジ」と呼んでいるところが不思議です。これには、いろいろな理由を想起できますが、ここでは割愛させていただきます。

「ダルマ」と「トンボ」

メバチの主に若魚を「ダルマ」というのが静岡~奄美、ビンナガの主に若魚を「トンボ」というのが静岡~沖縄となり、分布も呼び名も非常に安定的でした。

目が大きいメバチに同様の特徴を持つ「ダルマ」という呼称が、ヒレが長いビンナガに羽根の長い「トンボ」という呼称が、それぞれ与えられているのは、比較的理解しやすいものでした。

それぞれの語源

マグロ
①眼球が黒く「白黒」であるから
②マグロが集まると「真っ黒」になるから

https://maguro-bito.jp/origin/ (2022/12/11閲覧)

シビ
①シシミ(繁繁肉)の約転か〈大言海〉
②シシベニ(肉紅)の義〈日本語原学=林甕臣〉
③煮ると白くなるところからシロミ(白身)の義〈名言通〉
④時によりシブイ(渋)味がしてシビレルところから〈本朝辞源=宇田甘冥〉

※https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11139279821 (2022/12/11閲覧)

メジ
「目近」、すなわち吻(口)からすぐ後に目がある、という意味合いで「めじ」という。

https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1030633930

(2022/12/11閲覧)

ヨコワ
横縞があるから

https://ameblo.jp/tachibana2007/entry-11587335373.html (2022/12/11閲覧)

メバチ
目がパッチリと大きいことからの名。

https://gogen-yurai.jp/mebachi/ (2022/12/11閲覧)

ビンナガ
胸びれが非常に長く、長い鬢(びん)のように見えることに由来する。

https://hachimenroppi.com/wiki/details/binnagamaguro// (2022/12/11閲覧)

コメントしていただいた方々(Facebookにおける登録名そのまま、順不同)
下原 誠明さま、Kazuyuki Kondoさま、田中圭さま、濱口久貴さま、ワダ セイヤさま、古田真一郎さま、Mitsuhiro Komatsuさま、つねだ しゅんさま、嶋田 春幸さま、日高 秀一さま、原 兼太朗さま、山崎隆幸さま、宮城 大輔さま、蒲原 哲也さま、上田拓さま、山出 潤一郎さま、Kengo Kitamotoさま、門家重治さま、坂下 光洋さま、渡辺 邦充さま、Tamejima Satosiさま、田中 優希さま、高平康史さま、平塚 雄大さま、末廣 孝一さま、大澤風季さま、坪内茂さま、岬丸 鹿児島さま


投稿者 土岐耕司

原文作成日 2022年12月11日
内容更新日 2022年12月12日

※このページの情報は、Facebookグループ『WEB魚図鑑の部屋』に寄せられたコメントを基にまとめたものです。

WEB魚図鑑 マグロ(クロマグロ他)
https://zukan.com/fish/internal192

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