画像:WEB魚図鑑より(ゴリポンさん撮影)
はじめに
「WEB魚図鑑」では、コロダイの分布を「茨城県以南の太平洋岸、新潟県、兵庫県、山口県、福岡県の日本海沿岸、九州西岸、瀬戸内海、琉球列島、南大東島、尖閣諸島。~朝鮮半島、台湾、インド-西太平洋域。」としています。今回寄せられたコメントには日本海側からのものはありませんでしたが、静岡県~沖縄県からは得られましたので、概ね上記の分布と一致しており、この「コロダイ」は西寄りの魚と見て良いでしょう。
集まった情報を私なりに整理してみましたが、地方名的には少しややこしい魚であるようです。
「コロダイ」とは
毎回のことですが、ネット情報にすがってみました。
「「ころだい」は和歌山県での呼び名を標準和名にしたもの。和歌山県では猪の子供を「ころ」と呼び、コロダイの稚魚にある斑紋がその猪の子供のものに似ているため。」
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%80%E3%82%A4 (2022/11/26閲覧)
「コロダイの名前は「葫蘆(ころ)」という言葉が由来とされています。 葫蘆(ころ)は「猪の子供」のことで、和歌山での呼び方。つまり「ウリ坊」のことですよね。 「コロダイ」という呼び名も、元々は同県での地方名でしたが、今では標準和名となっています。 コロダイの幼魚は横に走る縞模様がはっきりと出ていて、この縞模様が、ウリ坊(葫蘆)の瓜の模様にそっくりというわけですね。」
https://pepeeto.com/blog/korodai/ (2022/11/26閲覧)
どちらも、「コロ=イノシシの子ども(ウリ坊)」を語源とし、和歌山における呼び名が発祥であるとしています。
ただし、「コロ」に「葫蘆(胡盧)」の字を当てていることには、違和感を抱きました。魚拓なんかは漢字表記の方がカッコいいので「胡盧鯛」と書かれることが多そうですが、完全な当字(あてじ)だと思われます。
ネットで「葫蘆」を検索すると、植物名(ヒョウタンの仲間)がヒットします。この植物とウリ坊・コロダイには、今のところ共通点が見出せません。単純にイノシシの子どもとコロダイの幼魚の模様が似ているからつけられた名前であり、それが和歌山発祥だった、ということでしょう。
寄せられた地方名
コロダイあるいはコロ:静岡県沼津市、和歌山県、香川県、徳島県、愛媛県宇和島市、福岡県、鹿児島県屋久島・徳之島
イソコロ:和歌山県
ホンコロ:和歌山県(コショウダイとの区別において)
コタイ:高知県(特に西部)
ココダイ:長崎県雲仙市(コショウダイとの区別なし)、熊本県水俣市
カワコダイ:鹿児島県垂水市
コデ:鹿児島県奄美大島
クレー・クレーミーバイ:沖縄県
カイグレ:三重県南部
カクレ:徳島県南部
コグロ:長崎県平戸市度島町
その他
ホイホイ(和歌山県、小さいもの)、オサコ(高知県須崎市)、エノミダイ(熊本県水俣市)、エノミ・ブタンクチ(長崎県雲仙市)、シマイッサキ(長崎県五島地方)、ヤナグレ(鹿児島沖永良部島、コショウダイと混同)
コロダイ系の地方名
「コロダイ」という呼び名が和歌山発祥であることは、今回の寄せられたコメントの傾向と矛盾しないようです。標準和名であるアドバンテージもあってか、静岡~屋久島に広く分布しています。
高知県では「コタイ」と呼ばれ、似たような名前に感じますが、あくまでも「コタイ」であって「コダイ」ではないことは気になります。
長崎・熊本では「ココダイ」、鹿児島では「カワコダイ」※、奄美では「コデ」と呼ばれ、沖縄では「クレー」となります。つまり、コロダイ→ココダイ→コダイ→コデ→クレーといった地理に沿った転訛が考えられるわけです。
※カワコダイの「カワ」に関して。
「個人的になら 川が絡む場所で良く釣れる気が」:坪内茂氏コメントより。
「屋久島でもコロダイですね、河口で釣れます」:日高 秀一氏コメントより
グレ系の地方名
「コロダイ」は鯛の仲間ではありませんが、平たい魚を表す「タイ」がくっついています。それと似た現象だと思うのですが、グレ=メジナに見立てたかのような地方名がみられました。
1つは三重県南部の「カイグレ」です。「カイ」の意味はわかりませんが、「グレ」はメジナのことではないかと思います。これとの関連性をなんとなく思わせるのが、徳島南部の「カクレ」です。どちらも「コロダイ」発祥の地である和歌山にもっとも近い地域であることも興味深いところです。
もう1つは、長崎県平戸市度島町の「コグロ」です。九州ではメジナのことを「クロ」と呼ぶところが多いので、「コグロ」の「クロ」もメジナのことではないでしょうか。
沖縄の「クレー」も、一見「グレ」起源にも思えますが、前で述べたように奄美の「コデ」が訛ったと考えた方が自然です。沖永良部島の「ヤナグレ」は、「コデ」「グレ」のどちら起源なのか、今のところは分かりません。
「エノミ」考
長崎・熊本で「エノミ」「エノミダイ」という呼び名がありますが、これは「榎の実」に通じるかと思います。榎(エノキ)は秋になると、甘くて赤い実をつけます※。これをコロダイの模様に見立てたのでしょう。キジハタの別名である「アコウ=赤穂」に通じるものがありますね。
※https://www.uekipedia.jp/%E8%90%BD%E8%91%89%E5%BA%83%E8%91%89%E6%A8%B9-%E3%82%A2%E8%A1%8C/%E3%82%A8%E3%83%8E%E3%82%AD/ (2022/11/27 閲覧)
コショウダイとの区別
同じ科に「コショウダイ」がいます。しばしばこの両者は混同されるようですが、つまりその評価にあまり差がないということになります。
今回の寄せられたコメントから、両者の区別が曖昧な地域が認められたので、参考までに提示しておきます。「コロダイ」発祥の地・和歌山から遠い地域が多くみられますが、和歌山と海を挟んだ隣県・徳島も含まれているのが気になるところです。
静岡県沼津市、徳島県、長崎県島原市、鹿児島県沖永良部島、沖縄県羽地
沖縄の「ミーバイ」再考
沖縄で「ミーバイ」というと、「ハタ類」のことを指すことが一般的です。しかし、今回の「クレーミーバイ」に加え、イシガキダイのことを「ガラサーミーバイ」という事例が、これまでの地方名募集で得られています。
イシガキダイの時にも考察に及んだのですが、そもそも「ミーバイ」とは何なのか。「メバル(眼張)」の転訛という説もあるようですが、奄美群島喜界島でハタ類のことを「ネバリ・ニバリ」ということから「根張り=根魚」からの転訛ではないかと、私は考えています。子音要素「N」と「M」が親和的である事例は九州・沖縄では間々あることのようで、巻貝の呼び名である「蜷(ニナ)」が「ミナ」と呼ばれるのはその一例ではないでしょうか。
沖縄の「ミーバイ」が根魚一般のことを指し示すのであれば、ガラサーミーバイ(カラスのような根魚)やクレーミーバイ(コダイと呼ばれる根魚)というのは、比較的すんなり理解できるような気がします。
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