海水魚

【シイラ】その魚名を考える

画像:WEB魚図鑑より(はるのぶさん撮影)

シイラ」についての予習

まずはWikipediaで調べてみました。

「シイラ」の名が初めて文献に現れるのは室町時代の辞書『温故知新書』(文明十六年-1484年成立)においてであり、その後節用集や日葡辞書などに収録されている。また、おそらくシイラの塩乾物として都で献上品とされたものが「クマビキ」(くま引、熊引、九万疋と表記された)と呼称されているのも室町時代の文献に見える。

「マンサク」は、実らず籾殻だけの稲穂のことを俗に「粃(しいな)」(地方によっては「しいら」)と呼ぶことから、縁起の良い「(豊年)万作」に言い換えたといわれる。「シビトクライ」「シビトバタ」などは、浮遊物に集まる習性から水死体にも集まると言われることに由来する。これらの地方ではシイラを「土佐衛門を食う」として忌み嫌うが、動物の遺骸が海中に浮遊していた場合、それをつつきに来ない魚の方がむしろ稀であることは留意する必要がある。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A4%E3%83%A9 (2021/9/17閲覧)

つまり、ここから分かることは以下。

  • 「シイラ」の語源には触れていないが、その呼び名は少なくとも室町時代まで遡る。
  • 同じく室町時代に、「クマビキ」は加工品名として登場し、「熊引」「九万疋」の字が当てられた。
  • 「シイラ」は縁起が悪いので、「マンサク」と呼び替えられた。
  • 浮遊物に集まることから、水死体を食べるといった意味の名前でも呼ばれる。

シイラの語源

「シイラ」自体の語源について触れられているものを紹介します。

①この魚の体皮は堅く、薄身で肉が少ないことから、米や麦の結実しない籾(もみ)のことを粃(しいな)と呼ぶことにちなんで命名されたといわれている。また、水死体の下について泳ぐことがあることから、「死」や「屍魚」が語源とも。「ラ」は「平たい魚」を呼ぶ一般的な語で、「死平(しいら)」の意。
https://www.maruha-shinko.co.jp/uodas/syun/41-shiira.html (2021/9/17閲覧)

②「シイラ」の名前は、殻ばかりで実のない籾(もみ)のことを「粃(しいな)」といい、「頭が大きいのに身は薄く食べるところがない」という意味に由来する説がある。他にも、衣服の上から腰のあたりに羽織る衣類のことを古語で「しびら(褶)」といい、海面に浮き上がるシイラを見立てて、「シビラ」→「シヒラ」→「シイラ」となったという説もある。
https://zatsuneta.com/archives/001966.html (2021/9/17閲覧)

③シイラの皮が硬く、身が薄いことからイネの粃を思わせるため。粃(しいな)は身のないイネの籾(もみ)のこと。この「しいな」が「しいら」に変化。
https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%82%B7%E3%82%A4%E3%83%A9 (2021/9/17閲覧)

④シイラの由来は「秕(しいな・しいなし・しいら)」です。これは殻ばかりで実のない籾(もみ)のことです。シイラも体は大きいが身が薄く食べるところが少ないから、ということです。また、シイラにとって水先案内となる漂流物は何でも構わないようで、時にはそれが動物の死骸であったりします。このことから、死人食(しびとくらい)などというとんでもない地方名さえあります。他には若魚時代に群れで遊泳する様から、万匹(まんびき)や十百(とうひゃく)、そして、シイラという名は縁起が悪いからと、万作(まんさく)や金山(かなやま)という名で呼ぶ地方もあります。http://www.shinkokai.co.jp/shun/merumagaBN-new/mel-text75_shiira.html (2021/9/17閲覧)


これらを見てみると、「秕(しいな)」に由来する説が強そうですね。そして、その吉凶を裏返した呼び名が「マンサク」であり、「カナヤマ」なのかも知れません。水死体系の呼び名も根強いですが、群れる意味にも取れる「トウヒャク」「マンビキ」というのもあります。

「マンビキ」と室町時代の加工品名「クマビキ」は同じ系統のように思えます。しかし、「クマビキ」に当てられた「熊引」「九万疋」は、群れる意味だけでなく、強く引く力を想起させます。次項で紹介しますが、「ウマビキ」「マンリキ」は力強い系の呼び名と言えるかも知れません。

寄せられた地方名

地方名については、すでに粗方の分類ができたように思います。以下に呼び名ごとに提示してみました。

マンサク  岡山県、広島県、島根県

カナヤマ  福岡県久留米市、佐賀県唐津市、長崎県佐世保市・南部・五島列島(大型雄のことを指す場合も含む)

トウヒャク 三重県南伊勢町・尾鷲市、和歌山県南部、兵庫県淡路島南部

トウヤク  三重県南伊勢町・熊野、和歌山県南部、高知県高知市以東

マンビキ  岩手県三陸地方、高知県高知市・南国市、福岡県、長崎県南部・五島列島、熊本県天草、宮崎県宮崎市以北、鹿児島県阿久根市・南さつま市・喜界島・奄美、沖縄県宮古島・八重山

マンビキ系

マンビ(千葉県外房)、マビキ(福岡県、熊本県天草、宮崎県宮崎市・日南市)、マンビッ(鹿児島県)、マンビカー・マンビカ(沖縄県本島・八重山)

クマビキ  高知県高知市・南国市

ウマビキ  徳島県南部

マンリキ  東京都、東京都伊豆大島、神奈川県横須賀・三浦、三重県志摩、和歌山県南部、高知県、福岡県、鹿児島県長島

水死体系

シビトックイ(東京都新島)、シビトクイ(三重県大紀町、和歌山県串本)

その他

オビダイ(富山県射水市)、オブダイ(富山県氷見市)、ネコマタギ(高知県安田町)、クソクイ(高知県高知市・南国市・安田町)、ヒーウオ(長崎県平戸市度島町)、マンタ(宮崎県北部)、ヒイオ・ヒイヨ(鹿児島県枕崎市)、フーヌイユ(沖縄県北部)

小さいサイズ

小さいと言っても、どこまでの大きさを指すのかはマチマチかも知れませんが、この呼び名も多く寄せられました。「マンサク」地帯の中国地方や「マンビカー」地帯の沖縄からは、不思議と小さいサイズの呼び名は寄せられませんでした。

ペンペン    神奈川県、三重県志摩、大阪府、高知県、福岡県北九州市、宮崎県北部

ペンペンシイラ 神奈川県、静岡県駿河湾

サンペイ    京都府伊根

ジラゴ     高知県西部

ベッタリ・ベッタリゴ・カミソリ 長崎県平戸市

コメントの傾向と地方名の分布

今回寄せられたコメントは、特定の地域からのものが多かった、という印象が強いです。三重県・島根県・高知県・長崎県・奄美・沖縄県です。しかも高知県を除いては、それぞれの地域での呼び名には斉一性があり、それだけその呼び名が地域に根付いているのだと感じました。

「マンサク」については、完全に中国地方に限られており、特に島根県の方々からはその由来話が多く聞くことができました。「マンサク」が「シイラ」の吉兆を裏返した名前なのであれば、「マンサク」以前は「シイラ」を実際に使っていたのでしょう。となると、「シイラ」という言葉が生まれたのもこの地域ではないだろうか、と想像してしまいました。

「トウヒャク(トウヤク)」は紀伊半島~四国西部、「カナヤマ」は長崎県周辺という、それほど広くない地域に分布しています。「マンビキ」系は、一部例外を除いては西日本に広く分布しますが、奄美・沖縄ではその例外がみられません。南西諸島の言葉は古く伝わったものが多いので、「マンビキ」も相当昔から使われていたのかも知れません。

「マンリキ」の分布には、力強さや主張が感じられませんでした。「マンビキ」の転訛と考えてもそれほどおかしくはなさそうです。

※「明石市では、流通してることがあまりないですね 島根県松江市では、マンサク(万作)と言うみたいですね、妻の実家で聞きました。シイラがシイナ(お米の実が入ってないもの)に聞こえるので言い換えてるとのこと 水草のアシをヨシと呼んでるのと同じことかと」:橋本 匠氏コメントより。

※「島根県です‼️稲が豊作の頃に美味しくなる魚ですので、シイラだとシイラ米と言いダメなお米の意味になります。豊作のにちなんで万作と名前を改め山間部で人気の魚になりました🤗」「稲が豊年万作からマンサクになったと聞いております🤗神話の国島根県ですから😊縁起をかつぐ名前が良かったのかと思います🤗」:寺井祐二氏コメントより。

現代の釣り人は

最近の呼び名と考えられるものも少し寄せられたので、提示しておきます。

神奈川県
 横須賀・三浦 ミニラ・チビラ(小さいもの)

静岡県     シルバー

静岡県
 駿河湾    PPS(小さいもの、ペンペンシイラの略)

コメントしていただいた方々(Facebookにおける登録名そのまま、順不同)
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投稿者 土岐耕司

原文作成日 2021年9月19日

※このページの情報は、Facebookグループ『WEB魚図鑑の部屋』に寄せられたコメントを基にまとめたものです。

WEB魚図鑑 シイラ
https://zukan.com/fish/internal263