海水魚

【マダイ】その魚名を考える


画像:WEB魚図鑑より(ユジダルさん撮影)

マダイに地方名は存在しない?

マダイの地方名を募集したところ、予想通りというか、予想以上にいうか、地方名らしきものがほとんど集まりませんでした。それでいて、転訛名・幼魚名・季節名・縁起物としての名前・幼児語としての名前などはよく集まり、卑称・蔑称の類はまったくないことから、いかにマダイの評価が高く、全国的に愛されている魚であることが分かります。どなたかがコメントされておりましたが、タイ(マダイ)はタイ以外の何者でもないのでしょう。

ただし、タイワンダイのことを沖縄方言で「ヨナバルマジク」と言う例があります。与那原(ヨナバル、沖縄本島南部東岸の地名)の鯛(マジク?)という意味なんだそうです。古語が残る沖縄における、この「マジク」という言葉は、「タイ」という言葉に一石を投じる存在なのかも知れません。

そもそも「タイ」とは何か

ネットで「タイ」の語源を調べてみました。

①平魚(タイラウオ)から変化した
「体が幅広い楕円形で、体高が高くいわゆるタイ型であることより名づけられたという説。 国語辞書の大言海に「タイは平魚(タイラヲ)の意と云ふ。延喜式(平安初期の本)に平魚(タヒ)・・・」とあります。「タイの呼名は非常に古くからあり、タは平たいこと、イは魚(イオ)の意で、平たい魚がタイの語源であろう」と唱えた研究者もいます。」

②目出たい魚(メデタイウオ)から変化した
「姿・形が美しく味も良い上に、体内の脂が腐りにくい性質を持っているため、お供え用としても便利で、また、長生きな魚で、40年位は生きることから、お祝い事にはなくてはならない「目出たい魚」という言葉が変化していったという説です。」

③道味(トミ)から変化した
「タイは、朝鮮の言葉で古くから「道味(トミ)」と呼ばれており、それが変化して今日の呼び名になったという説。 ある学者は「万葉時代から、日本ではタイが通称。これは朝鮮でトミと呼ぶので、それが変化したとの説もある。当時の日本の文化人は朝鮮半島の帰化人やその子孫が多かった」と述べています。」

④大位(たいい)から変化した
「外観や味覚に品があり、魚の王様の意味で名づけられたという説。 タイは沖縄では捕れませんが、奄美では、廷の魚(テイノイオ)と呼ばれ、朝廷で召し上がる魚と考えられていました。 「古くから人は武士、花は桜、柱は檜、魚は鯛といわれてきた。タイこそ海の王者-大位であり、川では鯉-小位であろう」と話す学者もいます。」

https://www.kaiseiken.or.jp/umimame/umimame01.html (この記事は二階堂清風編著「釣りと魚のことわざ辞典」東京堂出版より転載、ともある。2022/1/11閲覧)

個人的には④を推したいところですが、他目他科の魚にも「~ダイ」という名称が与えられている事例は枚挙に暇がなく(マトウダイ・キンメダイ・イシダイ・スズメダイ・・・)、それらのいずれも扁平な魚であること、そしてそれら命名の基になっていて、それすなわち相当に古い言葉であると考えられることからすると、①が有力な気がします。

このように地方名がほとんど存在しないような魚は、他にどれほどいるでしょうか? 私が思うに漢字一文字で表すことのできる魚には、その傾向がありそうです(鯉(こい)・鮒(ふな)、鯰(なまず)、鰻(うなぎ)、鰤(ぶり)、鯖(さば)、鮭(さけ)、鰈(かれい)・・・)。今後はこの辺も確認していければ、と思います。

寄せられた呼び名

マダイあるいはタイと呼んでいることが確認できた地域
青森県、東京都、静岡県、石川県、三重県、京都府、大阪府、和歌山県、兵庫県、広島県、高知県、九州北部、長崎県、熊本県、鹿児島県徳之島
※ただし、徳之島(以南)には分布していない可能性が高い。
※おそらく、北海道~沖縄までマダイあるいはタイと呼んでいるものと思われる。

「タイ」の転訛
テェ(伊豆諸島新島)、テー・テッ・テノイオ(鹿児島県)

本質的に同じ名前
本鯛(広島県)

他種(クロダイやチダイなど)との区別名
アカダイ(石川県)、カンコ(島根県西部)

縁起物としての呼び名
お鯛(お正月等の睨み鯛のこと、大阪市)、恵比寿鯛(縁起物として、或いは献上物として奉納する際に、九州北部)

季節名
桜鯛(春先に釣れる綺麗な赤いタイ、長崎県島原地方ほか)

幼児語としての呼び名
タイタイ(横浜市、広島県、下関市、大分県で確認された)
※私はまったく聞いたことがないので、とりあえず広島以西のものと考えるべきか。

幼魚名(小さいサイズ)
カスゴ(東京都、大阪府)、チャリコ(神奈川県、大阪府、和歌山県、兵庫県、広島県)、タイゴ(広島県福山市、高知県、長崎県)、コダイ(熊本県水俣市)、テェッコ(伊豆諸島新島)、アカチン(愛知県三河地方)、ヤキ(三重県南伊勢町、「塩焼きサイズ」ということか)、メッパチ(和歌山県)

※「江戸前の旬って漫画で、ある時期から真鯛、チダイ、キダイ全てカスゴと呼ぶようになったそうです。江戸前の寿司屋では、皮目が淡いピンク色で見た目がいいんでカスゴとして使ってる店もあるそうです。」:村上公一氏コメントより。

出世コース

チャリコ(~手のひらサイズ)→カスゴ(~30cm)→マダイ(大阪府)

チャリコ(~20cm)→カスゴ(~35cm)→タイ(和歌山県)

チャリコ(~20cm)→メッパチ(~30㎝)→タイ(和歌山県)

コメントしていただいた方々(Facebookにおける登録名そのまま、順不同)
上村 好正さま、嶋田 春幸さま、下原 誠明さま、木村 洋一さま、田中圭さま、浅野潔さま、舩本 誠一郎さま、重光陽一郎さま、山内 盛利さま、宮川清さま、山田重行さま、濱口久貴さま、蒲原 哲也さま、佐藤 文広さま、江間 正恭さま、Takuya Nakaoさま、野村 卓司さま、末廣 孝一さま、松浦 正さま、Shinichiro Yonezawaさま、和田 俊章さま、間所 幸一さま、深田吉宜さま、大澤風季さま、田中 一嘉さま、佐々木 隆志さま、辻 俊宏さま、かみむら りゅうさま、Kengo Kitamotoさま、村上公一さま

投稿者 土岐耕司

原文作成日 2022年1月11日

※このページの情報は、Facebookグループ『WEB魚図鑑の部屋』に寄せられたコメントを基にまとめたものです。

WEB魚図鑑 マダイ
https://zukan.com/fish/internal38

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